「Bistro RIKYU」さんで昆虫食のフルコースをいただいた後に、店主の角田さんと昆虫と料理にまつわるお話をするお時間をいただきました。個人的にとても興味深い内容だったので、その一部についてご紹介します。
昆虫料理人ここに現る
角田さんはいつものように野菜の仕込みをしていた(当時働いていたレストランでの話)。キャベツについた青虫を見てふと「最近話題の昆虫食。この青虫も食べられるのだろうか?」そう思い茹でて食べてみたときが、初めて昆虫を食材として意識した瞬間だった。料理人としての好奇心がそうさせたのだろう。
そのとき食べた2匹の青虫の味に明確な個体差があるという発見をもって、角田さんは昆虫料理人として覚醒したのかもしれない。ご謙遜もあると思うが、ちょうどその頃は料理人としての限界を感じていたそうで、私のような普通のサラリーマンにもとても共感できる話であった。
料理人と料理について話をさせていただいたのは、私にとってほぼ初めての経験だったが「自分の限界を感じたエピソード」で急に親近感が湧いた。そもそも「野菜」と「昆虫」ってもともとお友達、大昔からずっと一緒に暮らしているという当たり前のことにも気が付くことができた。
昆虫料理はサイエンスではなくアート
これまた興味深いお話。料理人にとって料理はコントロールが可能な「サイエンス」。つまりこの食材をこれくらいの厚さで、これくらいの火加減で、何分間煮込むと……基本的には再現が可能である。それに対して、同じ種でも個体差が大きく、食材としてもまだまだ未知で解明されていない部分が多い昆虫料理は、アートに近いところがあり、料理人にとってそれが魅力の1つだそうだ。
私が仕事で関わる事業開発という領域においても「スタートアップの経営はサイエンスなのか、アートなのか」という論争があるので、ここでも共通点を感じ、親近感を覚えた。
新鮮vs熟成
とてもお話がしやすい雰囲気をお持ちの角田さん。私もいろいろなことが気になってきたので、昆虫は新鮮なものがいいのか、熟成という概念があるのか尋ねてみた。
基本的には、昆虫は体が小さいことから鮮度が大事な食材とのこと。しかし種類によっては熟成させた方がよりおいしくいただける昆虫もあるのだという。例えばフェモラータのように少し日を置くことで風味が増し、好みはあるものの熟成により魅力が引き立つ素材もあるそうだ。食材として昆虫と真っ向から向き合う角田さん。料理人ってなんだかかっこいいぞ、と少し嫉妬せずにはいられなかった。
昆虫は第4極の食材?!
昆虫食のフルコースをいただいて、昆虫は肉でも魚でも野菜でもないことがわかった。あえて言えば魚、特に甲殻類であるエビに近いものを感じた。今後、本当に第4極の食材なっていくのか、あくまで中立な目線で見守りたい。
最後にもう1つ角田さんとのお話を紹介したい。角田さん曰く、お客さんは「どのような昆虫料理がおいしいのか」という物差しを持っていない。だから、昆虫食のフルコースを食べたお客さんは、必ず「おいしかった」と褒めてくれる。それが嬉しくも残念だという。
昆虫が食材としての地位を確立し、たくさんの料理人が様々な試行錯誤する世の中になっても、選ばれるお店、選ばれる料理を作りたいんだ。そう熱く語る角田さんの真っすぐな眼差しに心が揺れた一夜となった。